脂質異常症:dyslipidemia
脂質異常症の治療は動脈硬化性心血管疾患の予防には不可欠であり、患者さんのQOL維持に欠かせない項目です。動脈硬化は、動脈内膜に起こるプラーク形成(atherosis)と動脈中膜を中心に起こる壁硬化(sclerosis)のアテローム硬化(atherosclerosis)です。脂質の中でも高LDLコレステロール血症、低HDLコレステロール血症、高トリグリセリド血症は動脈硬化性心血管疾患の危険因子です。
動脈硬化性心血管疾患:心筋梗塞、狭心症、一過性脳虚血、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、閉塞性動脈硬化症 等
その他、動脈硬化性血管疾患の危険因子は、加齢、高血圧、糖尿病、耐糖能異常、慢性腎臓病、喫煙、冠動脈疾患の家族歴があります。
脂質とは
脂質は水に溶けにくい分子です。
コレステロール、脂肪酸、およびその誘導体が含まれます。
血漿中の脂質は、リポ蛋白分子の形で血中を輸送されます。
リポ蛋白の構成分子
アポリポ蛋白、リン脂質、遊離コレステロール、コレステロールエステル、トリグリセリド(中性脂肪)
血漿リポ蛋白の種類(脂質の割合による構成)
- カイロミクロン:トリグリせライドの割合が多い
- VLDL(超低比重リポ蛋白)
- IDL(中間比重リポ蛋白)
- LDL(低比重リポ蛋白)⇐悪玉コレステロール:コレステロールの割合が多い
- HDL(高比重リポ蛋白)⇐善玉コレステロール:コレステロールの割合が少ない
- L p(a)
☆LDLは肝臓に蓄えられたコレステロールを全身へ運ぶ働きがあり、増えすぎると血管壁にたまりアテローム硬化というタイプの動脈硬化を進めます
☆HDLは余分なコレステロールを全身から回収して肝臓へ戻す働きがあり、動脈硬化を進行させないように働きます
脂質異常症の診断基準
LDLコレステロール | 140mg/dL | 高LDLコレステロール血症 |
---|---|---|
120〜139mg/dL | 境界型 | |
HDLコレステロール | 40mg/dL | 低HDLコレステロール血症 |
トリグロセライド | 150mg/dL(空腹時) | 高トリグリセライド血症 |
175mg/dL(随時採血) | ||
non-HDLコレステロール | 170mg/dL | 高non-HDLコレステロール血症 |
150〜169mg/dL | 境界型 |
*non-HDLコレステロールはトリグリセライドからHDLコレステロールを引いたもの
(参考文献:日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」)
(「脂質異常症診療ガイド2023年版」)
治療方針
生活習慣の改善と薬物療法によって脂質管理を行います。
冠動脈疾患またはアテローム性血栓性脳梗塞がある場合は、重症化予防が目的となり厳格な目標設定が求められます。
糖尿病、慢性腎臓病、末梢動脈疾患の有無と年齢により管理区分が分類され、動脈硬化性心血管疾患の発症予防が治療目標となります。
糖尿病:diabetes mellitus
糖尿病は、すい臓のベータ細胞で作られるインスリンの分泌・作用の障害により、血液中のブドウ糖(血糖)が慢性的に高くなっている状態のことです。
分類
- I型糖尿病:
- 自己免疫などで膵臓のベータ細胞が破壊せれ、絶対的にインスリン欠乏となる。
- II型糖尿病:
- インスリン分泌が低下したりインスリン抵抗性により、インスリンの相対的不足となる大部分の患者さんがこれにあたります。
- その他:
- 術後、腫瘍、内分泌疾患、薬物、遺伝子異常等による
- 妊娠糖尿病:
- 妊娠中に発症するか診断された耐糖能異常です。
診断
1〜3のいずれかによります
- 1)糖尿病型を2回確認する(1回は必ず血糖値で確認)
- 2)糖尿病型(血糖値で確認)を1回+慢性高血糖状態の存在の確認
- 3)過去に「糖尿病」と診断されて証拠がある
(参考文献:日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」)
治療目標
個々の患者さんの病態を考慮し、糖尿病に伴う身体的な合併症の抑制だけでなく、心理面での負担軽減にも努め、糖尿病のない人と変わらないQOLを保ち、寿命を全うする事です
慢性合併症
慢性合併症の防止は、糖尿病管理の主な目標の一つです。発症の予防と進行を遅らせることが、患者さんのQOLを保持することになります。
- 慢性的な高血糖による細小血管の合併症
- 網膜症、腎症、神経障害
- 慢性的な高血糖による大血管の合併症
- 心筋梗塞、狭心症、糖尿病性心筋症、心不全、末梢動脈閉塞
- その他
- 感染症、歯周病、骨折、悪性腫瘍、認知機能障害、サルコペニア、フレイルなど
治療
食事療法と運動療法を主体として、薬物治療を併用します。
高血圧、脂質異常症、肥満などの合併がある場合は、これらのコントロールも非常に大切です。
高尿酸血症:hyperuricemia
尿酸値が高いと言えば、「痛風」がよく知られていると思います。尿酸はプリン体と呼ばれる物質が肝臓で分解された後に発生する老廃物です。血中で尿酸値は、食べ物・飲み物、体内で産生、二次性(薬剤・脱水・腎機能障害等)で高くなります。
診断:血清尿酸値が7.0mg/dL以上
尿酸値が高い状態が続くと、水に溶けにくい尿酸は「尿酸塩」という結晶になります。高尿酸血症は尿路結石や腎機能障害を起こします。また、何らかのきっかけで関節内で尿酸結晶が炎症を起こすと痛風発作となります。
高尿酸血症は動脈硬化性疾患の発症リスクが高く、脳・心血管イベントの発症・重症化予防の危険因子とされています。その他の生活習慣病(糖尿病、脂質異常症、肥満)にも合併する確率が高く、尿酸値の正常化は重要となります。そのためには、日頃の生活習慣の改善が必要です。
(参考文献:日本痛風・尿酸核酸学会「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3班」)
慢性腎臓病:Chronic Kidney Disease(CKD)
慢性腎臓病とは腎臓の機能が正常の60%未満に低下するか、尿に蛋白が出る状態のいずれかが3ヶ月以上持続することをいいます。慢性腎臓病の方では腎臓機能低下による末期腎不全の危険ばかりでなく、心血管疾患や脳血管障害などの危険が増えることが知られています。
心臓と腎臓の関連〜心腎症候群〜
心臓病と腎臓病、この二つの障害は併存しやすく、相互に影響しながら病気が進行します。このような病態を心腎症候群と呼ばれています。特に、心臓ポンプ機能が低下している慢性心不全・心血管疾患の患者さんには慢性腎臓病が多く見られます。それと同時に慢性腎臓病では心臓病を含む心血管疾患の頻度が増加します。心臓と腎臓それぞれの臓器障害を進めないために、薬物治療や生活習慣改善などの適切なリスク管理が必要になります。
心腎症候群のリスク因子
肥満、メタボリックシンドローム、高血圧、糖尿病、貧血、尿毒症等は心機能・腎機能障害を悪化させ息苦しさやむくみが出現する心不全を誘発します。
外来診療では、胸部レントゲン・心電図・腎機能(eGFR)/シスタチンC・BNP /NTーproBNP・ヘモグロビン等を検査しながら治療を行います。
(参考文献:日本腎臓学会編 エビデンスに基づくCKD 診療ガイ ドライン 2023 )
(高血圧治療ガイドライン2019)